●待合室のCDデッキ
病院の待合室のテーブルに
CDデッキがおいてある
優雅にクラシックを
再生してはいるが
電源コードは苦しそうにのびきっている
プラグの差し込み口が遠すぎるのだ
少しでも距離をかせごうと
本体もテーブルの端ぎりぎりでふんばっている
しかし 落ち着いて よく見渡してほしいのだ
テーブルのそのすぐ下に もうひとつ差し込み口があるじゃないか
そんなに遠くの誰かと 手をつながなくても
すぐそばに仲間はいる
君がほしかったものは 意外と近くにあるのかも
みんなと仲良くするために
まずは となりの他人とシェイクハンド
●ヒモと春風
道に一本のヒモが落ちている
そこへ風がふいてきた
春風が書こうとした文字は
「S」それとも「&」?
風がふけば 帽子がとんで
帽子がとべば 子供が追いかける
子供が追いかければ 車が急ブレーキ
車が急ブレーキふめば 母親が悲鳴
母親が悲鳴をあげれば 眉間にシワがよる
しかし、子供は無事だったので
眉間のシワはほどけ
一本のヒモとしてポトリと落ちた
そこへ風がふいてきた
春風が書こうとした文字は
「S」それとも「&」?
いや、これは未完成の「ト音記号」
誰かがふいに歌いたくなりました
今、十字路から音楽がはじまろうとしている
●モップ
ぼくは
ポンキッキでおなじみ
『ムック』のいとこ
『モップ』です
人々の足跡や
くっついたガムばかり舐めているので
目は捨ててしまいました
見る必要はないし
ムックのように飛び出た目は邪魔ですから
「もう、これ以上何も見たくない」なんて
芝居がかったことは言いません
「見る必要はない」
ただ、それだけです
また、今の言葉に深い意味はありません
ぼくはぞうきんではないので
裏と表を使い分けるという概念がない訳です
●ウェットスーツの首つり
質屋通いも続けましたが
いよいよどうにもならず、首をつりました
思えば私を着ていた男が悪いのです
ダイビングを始めるといい 私を購入したのですが
海へ潜る前に 電車にダイブしてしまった
男が残した借金を返済するために
苦心惨憺(くしんさんたん)しましたが
私はしょせん伸縮性生地 力が入らないのです
ああ、一度でいいから海へ潜りたかった
いっそのこと断崖から海へ身を投げようとも思ったのですが
やはり首をつることにしました
私はもうこれ以上
海を汚したくなかったのです
●ロボットの化石
遊歩道のそのわきに
巨大なロボットが埋まってる
人のよさそな顔をした
巨大なロボットが埋まってる
どうして顔だけ出ているのかというと
はるか大古に製造されて
棄てられ、埋まったロボットの化石だから
しかし そんな事を知らない人間が
家と勘違いして住んじゃった
(ただちにそこから引っ越して下さい)
(そこはロボットの頭部です)
(目にふとんを干さないで下さい)
(レーダー装置でテレビを受信しないで下さい)
(そこはロボットの頭部なんですよ)
(さあ、たった今 そこから立ちのいて下さい)
もしも、それが嫌ならば
操縦して立ち上がるのだ!
人をびっくりさせるため
すべての武器を破壊せよ
●ラビットスクーター
三丁目の路地裏で
老ウサギが休んでる
しばらく眠っている間
こんなに風化してしまったが
まだまだカメは追い越せる
とばせ、とばせ、ラビットスクーター
ゴールは間近、すぐそこだ
Go!Go! ラビットスクーター
昭和が終わったなんて
たぶんウソだぜ
●ビニール傘
市ヶ谷駅の外堀の
土手の桜の枯れ枝に
ビニール傘がかかってる
ピンクの傘がかかってる
あんなところにいったい誰が
忘れ物でもあるまいに
酔っぱらった学生が
ふざけて投げたものなのか
傘会社のヒコーキが
輸送中に落としたか
新築の家を作ろうと
カラスが運んだ建材か
それとも最初(ハナ)から落ちていて
下から桜が生えたのか
いえいえ、あれはつぼみです
今はまだ閉じていますけど
春にはパサッと開くのです
今年の花見は面白い
花見じゃなくて 傘見です
もうすぐ春がやってくる
満開のビニール傘を夢想する
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